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2025年3号 映画 Perfect Days (パーフェクト・デイズ)

Perfect Days (パーフェクト・デイズ)

Paolo Rosi

 『パーフェクト・デイズ』の主人公ヒラヤマ(役所広司の見事な演技によって演じられる)は、質素な生活を送っている。夜明けには鉢植えに水をやり、一日中、東京の公共トイレを丹念に掃除し、夜には本を読む。その一見すると簡素な日常のキャンバスの上に、監督ヴィム・ヴェンダースは、アナログ的で流れに逆らう生き方の中に充実を見出す、一人の忘れがたい人物の姿を描き出している。

言 語   日本語

ジャンル  ドラマ

公開年   2023年

監 督   ヴィム・ヴェンダース

制作国   日本、ドイツ

制    作      Master Mind

上映時間    123分

 

◆ 予告編   

こんなにシンプルでありながら、こんなにも逆説的。

不思議に思えるかもしれないが、近年もっとも深く霊的な映画のひとつは、公衆トイレを清掃する男の人生を描いている。『Perfect Days』の主人公・平山は、カンヌ映画祭2023でこの役により最優秀男優賞を受賞した名優・役所広司によって演じられている。彼は東京での仕事を、鏡を使って隅々まで確認し、自作の道具を用いながら、ほとんど神聖ともいえる几帳面さと献身をもって行っている。彼にとって、このつつましい仕事は満ち足りた安らぎを見出す営みであるように見える。

ヴィム・ヴェンダースは、その卓越した映像美によって一つひとつの場面を絵画のように変え、言葉少なく、しかし豊かな所作に満ちた、静かで癒やしの体験へと観客を導く。朝の水やりから始まる小さな鉢植えの世話。平山の一日を形づくるルーティンは、彼を世界と結びつける独自の儀式なのだ。

「ママが言ってた。あなたは私たちとは違う世界に生きてるんだって」。姪がつぶやくその言葉が、この映画の真実を物語っている。ますます慌ただしく、デジタル化し、人を疎外する時代にあって、平山の世界はあえてアナログだ。ルー・リードやパティ・スミス、ジ・アニマルズの音楽を古いカセットテープで聴き、夜は紙の本を読んで眠りにつく。仕事の合間には「木漏れ日」に身をゆだね、木々の葉の間から差し込む光の戯れを楽しむのだ。

ここで彼の生き方は、「成功した人生」とされる一般的な期待に逆らう、大胆な希望の概念と結びつく。平山が示しているのは、充実とは財産や経験、名声を積み重ねることではなく、今この瞬間に平和を見いだすことだ。彼の希望は、よりよい未来を待ち望むことにではなく、現在に意味と安らぎを見つける力に根ざしている。平山は、ひとつひとつの行為が永遠の価値を持つかのように生き、細部への配慮や今この時を大切にする姿にそれが映し出される。

平山は「いつか訪れる完璧な未来」を待つのではなく、「今日に可能な完璧」を生きている。その希望とは、悲しみや憂いをも含めて、人間の感情の全てを受け止める力だ。常に明るい明日を夢見る幻想ではなく、喜びも苦しみも抱えた人生そのものが生きるに値すると理解しているのである。

彼の人生は、選び取った孤独かもしれないが、決して孤立ではない。世捨て人のように世界を拒むのではなく、むしろ彼は、突然訪れる姪、風変わりな後輩からの依頼、見知らぬ人との一瞬の出会いなど日常の流れを中断する出来事を温かく受け入れる。多弁ではないが、控えめな交流の中にさえ、誠実な礼儀と深い尊重が感じられる。公共のトイレを清潔で心地よい場所に保つ彼の仕事は、まるで政治的な行為のようでもある。認められるかどうかに関わらず、他者への配慮こそ重要だと信じる、静かな奉仕の実践だからだ。

ヴィム・ヴェンダースは何も説明しないのに、多くを語る作品を制作した。観客は平山の日常の流れに寄り添い、やがて理由もはっきりしないまま心を揺さぶられる。おそらくそこに、より本物の、異なる生き方の可能性を垣間見るからだ。観る者は、平山と共に泣き、微笑む。その人生のシンプルさが、普遍的な意味を求める人間の根源的な欲求と響き合うのだ。

『Perfect Days』は、外見を超えて物事を見ること、平凡なものの中に美を見いだすこと、そして本当に「生きる」とはどういうことかを問い直す招待状である。自分の小さな宇宙の中で「完璧な一日」を、瞬間ごとに創り上げていくひとりの男の、大胆な姿を描いている。